はじめに
経済の停滞、人口減少、格差の拡大、環境問題、未曾有の大災害、そして人と人とのつながりの希薄化。これらの課題が声高に叫ばれるようになって、いったいどれだけの時間が経ってしまったのでしょうか。その課題も相互に絡み合い、既存のシステムだけでは解決困難な複雑な様相を呈し、長い間私たちを仄暗く取り巻いてきました。
しかし今、世界はかつてないほどの速度で変化しています。AI技術の爆発的な進化やDXは現状打破の核とも考えられ、とくに疲弊する地方においてはその導入が急がれています。新たな時代への転換点は、苦しくても必ず乗り越えなければならない試練であり、大きなチャンスでもあります。既成概念にとらわれることなく、新しい価値観と社会のあり方を創造すべく自ら歩み、行動し続けるからこそ、より良き未来を引き寄せ、明るい世界へと舵を切ることができるのです。
たったひとつの小さな行動が、やがて大きな革新の風となり、この閉塞感を打破する力となることを、私は信じています。
まちづくりと共生の精神
私は学生時代から、このふるさと士別の様々なまちづくり事業やイベントにボランティアとして参画してまいりました。そこで出会ったのは、損得勘定を超えて「まちをよくしたい」という純粋な想いを抱く多くの方々でした。年齢も職業も立場も異なる人々が、共通の目標のもとに集い、「仲間」として知恵を出し合い、汗を流す姿を目の当たりにして、私は郷土への深い愛と、人と人とが協働することの素晴らしさを学びました。
そして私は2019年、市役所の人材育成研修の一環として出向する機会をいただき、士別青年会議所に入会し、さらに深い感動と衝撃を覚えました。ゆるがない理念、先見の明、強い団結力と責任感、そして何事にも真剣に取り組み、必ずやりとげる行動力。どれも私には足りないものばかりで、とても眩しいものでした。単に参加しているだけでは見ることができない姿がそこにありました。特に印象的だったのは、事業が終了したときに涙を流す姿でした。その姿を見て、自分の今までの経験とは、なんて気楽なお客様気分だったのだろうと恥ずかしくなると同時に、何かを成すことの大切さ、難しさ、苦労の先にある喜びを学ぶ機会を丸ごと支えてくれる青年会議所が、単なるイベント団体ではなく、その存在をかけて地域と、そこに住む人たちの未来のために貢献する志高き集団であることを実感したのです。
原点、地域から始まる意識変革
1957年の創立以来、先輩諸兄が築き上げてこられた歴史を振り返ると、そこには常に時代の先駆けとなる運動の軌跡があります。しべつ雪まつり、士別天塩川まつり、羊によるまちづくり運動、そして数え切れないほどの青少年育成事業や地域活性化事業。これらすべてが、既存の枠組みにとらわれることなく、新しい価値を創造してきた証であり、大切な財産です。
今、青年会議所を構成する若者たちはいわゆる「失われた30年」の中で生まれ、育ってきた世代です。戦後復興から高度経済成長、そして成熟社会に至るまでの量的な豊かさを追求する従来モデルはすでに限界に達していました。経済的に豊かな時代を知らない私たちにとって、抗えない人口減少、環境変動、格差拡大という現実は、課題と認識するにはあまりにも身近に存在しています。また、デジタルネイティブ世代にとって、多量の情報から必要な情報だけをつかみ取ることは既に日常となっています。停滞した現実の環境とは裏腹に、広大な情報の海は常に新たな魅力や流行の波を運んでくれます。少し調べればあっという間に回答が提示され、評価すら数字で見えてしまう世界。成果や効率ばかりが重視され、「皆が納得する正解」を求め、そこに同調することが当然となり、気づかない間に私たちの自由な思考が奪われてはいないでしょうか。
では、どのようにしてこれらの課題を解決し、新たな価値観のなかでの豊かさを実現していくのでしょうか。その答えは私たちの足元にあり、青年会議所がずっと続けてきた運動に何ら変わりはありません。地域から始まる小さな意識変革こそが、やがて社会全体を変える大きな力となることを今、あらためてお伝えしたいのです。
共創の文化
意識変革の第一歩は、市民一人ひとりが主体的に地域の未来を描き、自分事として捉えることから始まります。地域の課題解決において、実現に向けて真に力を出し合うためには、行政、企業、団体、それぞれの強みを活かすための関係性の構築が重要です。それは、強いリーダーの思想に追従することでも、個々が己の願望のままに自由気ままにふるまうことでもありません。物事の本質をとらえ、目指すゴールを共有すること。異なるアプローチがあることを理解し、認めること。自分の目指す未来を誰かに叶えてもらうために意見するのではなく、皆の共通のゴールのために自分には何ができるのか、しっかりと自立して考え、行動できるよう成長していくことが必要なのです。安易に同調し、単に我慢するだけでは、良い未来は生まれません。自身の本質が揺るがないからこそ、他者を認め、受け入れることができるのではないでしょうか。そうして生まれた関係が少しずつ広がり、大きく調和していくことが真の多様性の支えとなり、この地域ならではの創造的な解決策を生み出していきます。私たちはその触媒となり、多様な主体をつなぎ、市民の意識的自立を促す運動を展開してまいります。
多世代共生の仕組み
今、少子化は地方で最も深刻な課題といっても過言ではありません。学校、地域活動、文化やスポーツに至るまで、活動人口そのものを維持できず、関係人口や、何より子どもたちの体験の機会そのものが失われてしまうのは遠い未来の話ではありません。地方でしか得られない体験は確かにありますが、現状、生まれ育った地域で誰もが当たり前に体験できたことを継続していくには時間的、金銭的にも大きな負担を伴います。どんなにその地域に強い魅力があったとしても、日常におけるデメリットを強く意識されてしまっては、住み続ける選択はますます難しくなってしまいます。
この大きな課題に立ち向かい、ふるさとでのかけがえの無い経験を将来にわたって子どもたちの財産として残していくために、子どもから大人まで、そして高齢者までもが相互に学び合える場を創出することは今後ますます不可欠となります。世代を超えた交流が誰にとっても能動的な学びの契機となり、自ら考える力を高め、地域全体の活力の循環を促進します。実体験を基軸とし、成果よりも、成長を促す機会の提供することで、地域一丸となって、ふるさとの未来を支えていきます。
情報選択の主体化
何が正しいのか、どの道が正解なのか。先人たちの膨大な知識は常に私たちの助けとなり、指針となってきました。かつてその情報の収集から精査までにかかった時間は、デジタル技術の進化によって圧倒的に短縮されつつあります。ですが、いかに優秀に整理されていたとしても、それは過去の蓄積です。過去にかけられる時間を節約できたからこそ、未来と向きあう時間を大切にしていきたいのです。そして、未来を生み出すのは対話であり、人であることは、これからも変わることはありません。
まずは、活用するための知識を身につけること。そしてデジタル技術を活用しつつも、人と人との対話を基軸としたコミュニケーションを重視する社会への歩みを進めていくことはこれからの時代、どちらも欠けては成り立たない大切な両輪です。技術の中に正解を求めに行くのではなく、技術を活用することで正解を導く議論に時間をかけられるような環境を整え、氾濫する情報の中から本質を見抜き、自らの意思で選択し、その選択に責任を持つ。そして、選んだ道を仲間と共に歩む。効率よりも共感を、答えばかりではなく過程や、問いを大切にできる市民意識の醸成に取り組みます。
仲間と共に
これらの運動を推進していくためには、共に歩む仲間が必要です。「何となく生きづらい世の中、今日より明日が少しでも幸せであってほしい―。」その思いが、そして思いを行動に移す勇気こそが、私たちの運動の原動力です。
志を同じくする仲間が増えれば増えるほど、地域を変える力は強くなります。そのために私たちは、ときには蓄積されたブランド力も拝借しながら、青年会議所という組織の魅力を自らの言葉で語り、胸を張って伝えていかなければなりません。まずは私たち自身が成長し、運動を通じて得た学びや喜びを実感している姿を見せること。そして、その実感が地域に波及すること。「ここでなら、本当に未来を変えられるかもしれない―。」そんな、自身の夢や希望を実現するパートナーとして選ばれる組織へと成長することで、多様な価値観を持つ人財を迎え入れ、更なる個人の成長と地域の可能性を拡大します。
おわりに
共に歩んでくれる皆さん。人は、誰もが最初から完璧な人間ではありません。挑戦するからこそどんどん自分が磨かれてゆき、失敗は、終わりにはなりません。決断するには大きな勇気が必要ですが、それは他の誰でもなく、自分自身の責任だと知っているからです。どうか恐れないでください。その選択は絶対に自分だけのものではありません。どんなときも仲間は必ずそばにいて、支えてくれています。縁はつながり、小さな波紋でも必ずどこかに影響し、共に歩むことで想像以上の力を発揮し、成長できることは間違いありません。私たちが今、ここで実践する「共創の力」が、やがて士別から北海道、そして日本全国、世界までも広がっていく。私はその、最初の一滴になる覚悟をもって1年間理事長の職を全うしてまいります。
混沌とした時代だからこそ、私たちには無限の可能性があります。一人ひとりの英知と勇気と情熱を結集して、この閉塞感を突破し、誰もが自由に、希望を持って生きられる社会を創造していきましょう。手を取り合い、顔を上げて、輝く未来へ。